後見人になるために特別な資格が必要ないことをご存知でしたか?
じつは、「成年後見制度」には、後見人になるための資格の必要性を一切明記されていないのです。5つの欠格事由に当てはまらないことを前提に、親族を含め誰でも後見人になることが可能なのです。
また、後見人には「親族がなる場合」と「専門家(弁護士など)が後見人になる場合」の2つのパターンに大別されます。私たちは親族が後見人になることを推奨していますが、いずれの場合もメリットとデメリットがあり、絶対に親族が後見人になるべきと言い切れないのが現状です。
そこで今回は、後見人になるために資格が不要であることをわかりやすく解説するのと同時に、5つの欠格事由・親族がなる場合と専門家がなる場合のメリットデメリットを具体的に解説していきます。
ぜひ参考にしてみてください。
目次
1後見人になるために資格は必要ない〜5つの欠格事由も併せて解説〜
結論からお伝えすると、後見人になるために資格は必要ありません。「5つの欠格事由」に適合する人に限っては後見人になることはできませんが、それ以外の人はどんな方でも後見人になることが可能です。下記より紹介する5つの欠格事由に適合しなければ、親族、第三者、専門家、また、法人に至るまで後見人になることが出来ます。
なお、成年後見制度(後見人についての制度)には、①任意後見制度(被後見人の判断能力に問題ないうちに、将来に備えて決めておく制度)②法定後見制度(被後見人の判断能力に衰えがみられる状況で利用する制度)の2つがありますが、どちらの制度においても後見人になるための資格は不要です。
<注意>
5つの欠格事由をクリアしていても必ずしも後見人に選任されるとはかぎりません。後見人は裁判所が決定しますが、被後見人の精神状態、生活状態、資産状況、申立理由、意向、候補者の適格性などの事情を考慮して後見人を決定するからです。
欠格事由1つ目:未成年者
未成年者は、判断能力が社会経験不足などによりまだ未熟で、財産管理等を行う後見人としての適切な職務の遂行が期待できません。
欠格事由2つ目:後見人を解任された履歴
過去に裁判所から後見人などを解任された履歴がある人は、不正行為や不行跡(道徳的に好ましくない行為)が原因で解任されています。財産管理等を行う後見人としては適切な職務の遂行が期待できません。
欠格事由3つ目:破産者
破産者はそもそも自己の財産管理権を喪失しています。他人の財産管理等を行う後見人としての適切な職務の遂行は期待できません。
ただし、破産者でも免責をうけた人は後見人になることができます。
つまり、ここでの破産者とは、破産宣告を受けてから免責を受けるまでの間の人のことです。
欠格事由4つ目:被後見人に対して訴訟をおこした者及び配偶者、その直系血族
財産管理にかかわらずあらゆる訴訟を起こした者もしくはその配偶者・直系血族は後見人になることはできません。対立関係にある以上は、被後見人の利益の保護を目的とする後見人としての適切な職務の遂行は期待できないからです。
なお、訴訟が解決され、利害関係がなくなれば、欠格事由から外れますので後見人になることができます。
欠格事由5つ目:行方不明者
行方不明の人が後見人として被後見人の財産管理等を行う職務の遂行は不可能です。行方不明者とは「どこに行ったかわからない者」のことであり、下記のような場合も行方不明者として扱われる可能性があります。
- 連絡する手段がない
- 事前に伝えていた移動先を探しても居ない
- 移動に関する記録が存在しない
- 記録はあったかもしれないがその記録自体が見つからない
公安委員会による定義は下記の通りです。
行方不明者とは
この規則において「行方不明者」とは、生活の本拠を離れ、その行方が明らかでない者であって、第六条第一項の規定により届出がなされたものをいう。
第六条第一項 行方不明者の親権を行う者又は後見人(後見人が法人の場合においては、当該法人の代表者その他当該法人において行方不明者の後見の事務に従事する者)。
引用:平成二十一年国家公安委員会規則第十三号
2専門家と親族どちらがなるべき?それぞれのメリット・デメリット
私たちは、信頼できる親族が後見人になるべきと考えています。なぜなら信頼できる親族であれば不正が発生する危険性を限りなく抑えることができるからです。成年後見制度では不正行為などトラブルが多々発生しています。信頼関係の薄い親族や見ず知らずの専門家よりも、信頼関係の厚い親族が後見人になることを第一に考えましょう。
ところが信頼できる親族が身近にいないケースも存在します。それこそ近年は、親族ではなく専門家が後見人に選任されることが一般的です。専門家が後見人になるケースは、2000年にはわずか5%でしたが2017年には68.3%(35,673件中、24,393人)と上昇しています。これは、専門家の方が専門的な知識や経験が豊富であることが影響していると考えられます。専門家が後見人になることのメリットも当然存在しているのです。
上記のように親族・専門家いずれにもメリットはありますし、反対にデメリットもあります。そこでここではそれぞれのメリット・デメリットを紹介するので一つの参考にしてみてください。
<補足>
「専門家」とは、法律や福祉に専門的な知識を持った人のことで、司法書士、弁護士、行政書士、税理士、社会福祉士、精神保健福祉士のことを指します。別名、職業後見人と呼ばれます。
2-1親族が後見人になる場合のメリットとデメリット
それでは親族が後見人になる場合のメリットとデメリットを見て行きましょう。
「メリット」
①信頼関係が強く安心
親族が後見人の場合、配偶者や親子と被後見人の関係に表されるように深く、信頼関係も強いものです。気ごころも知れているので、被後見人の性格や趣向などもよく分かっており、コミュニケーションのギャップが生じにくく安心して後見人を任せられます。
②報酬は無い場合が多い
また、後見人への報酬につても、後見人に選任される人が法定存続人であれば、報酬を請求しなくても遺産分割の段階において親族間で調整を行う場合が多いので本人の財産の消費が少なくて済みます。
「デメリット」
①職務の負担が大きい
後見人が就労している場合や、後見人自身が高齢者の場合には、財産管理等の契約の手続き・処理などの負荷が大きすぎる場合があります。後見人が遠方に在住している場合などは、しっかりとした見守りができないことがあります。
②遺産相続でトラブルになる可能性がある
遺産相続をめぐっては、被後見人や、他の親族と利害関係が対立したり、そのことで、争いが絶え無くなったり、関係性が冷え込んでしまう可能性があります。
そして、過去のデータにあるように、財産の使い込みなど不正が発生してしまう場合があります。
③不利益をもたらす可能性がある
専門家と比べると専門的な知識や経験値が少ないため、保険や不動産等の契約や管理など金銭が絡むやり取りの中で思わぬ不利益をもたらす可能性があります。
親族が後見人になるケースが減少している
親族が後見人になるケースは減少しています。2000年には、親族が後見人になるケースが91%を占めていましたが、2017年には26%(35,673件中、9,360人)まで減少しています。その大きな原因は、一人暮らしの老人、身寄りのない老人が増えているという社会的背景があります。核家族化と、高齢化が進んでいる社会の大きな課題でもあるこの現象が、親族が後見人になる障壁となっています。
また、裁判所は親族でない第三者を後見人として選任する傾向にあります。過去、親族後見人による不正が多発していたからです。もちろん、信頼関係の厚い親族であればこのような不正が発生することはないでしょう。しかし信頼関係の薄い親族しかいない場合は、専門家に後見人になってもらうことが賢い選択かもしれません。
2-2専門家が後見人になる場合のメリットとデメリット
まず、専門家は専門的な知識だけでなく、財産管理や介護に関する経験が豊富なので、利益の確保、不利益の排除に長けています。
このことはデータでも顕著に表れていて、すべての後見人の中でも後見人に選任されている割合は、2017年では「司法書士」が27%(9,982人)と一番高く、ついで「弁護士」23%(7,967人)、「社会福祉士」11%(4,412人)となっています。
以上を踏まえた上で、具体的にメリットとデメリットを紹介していきます。
「メリット」
①被後見人が不利益を被らないように専門的に支援できる。
職業後見人は法律や介護の専門家。専門的な知識を有しています。財産管理や身上監護などにおいて被後見人が不利益を被らないように支援することが可能です。また、一般的には複雑でかなり徒労感の強い後見人の業務を効率よく行うことができます。
②不正が発生しにくい
職業後見人は不正が発生しにくい傾向にあります。過去の不正の90%以上が職業後見人以外の人が後見人になった場合です。
「デメリット」
①報酬が発生する
職業後見人の場合、その専門性にたいする対価として報酬が発生します。報酬は被後見人の財産から捻出される、つまり被後見人の財産が目減りしていくということになります。
②身上監護が不十分になる可能性あり
職業後見人は、被後見人と血縁関係がないので、親族後見人よりも身上監護が不十分になってしまう可能性があります。
後見人の業務には身上監護として「本人(被後見人)の状況に変化がないか定期的に本人(被後見人)を訪問し生活状況を確認すること」も含まれています。しかし、仕事で請けている職業後見人は、親族に比べて被後見人への思い入れは薄いので、どうしても身上監護が不足がちになります。
その結果、被後見人との間でコミュニケーションが不足がちになり、意思疎通がうまくいかずトラブルになるケースが発生します。
ちなみに、後見人の報酬の目安を東京家庭裁判所が発表しています。(平成25年1月1日)
*報酬額の基準は各裁判所で異なる可能性があります。当該裁判所にてご確認ください。
3親族が後見人になるためには判断能力があるうちに手続きをしよう
親族が後見人になるためには、被後見人の判断能力がしっかりある時に手続きをしておくことが必要です。なぜなら認知症発症後に適用される「法定後見制度」では親族が後見人になることが難しいからです。
3-1認知症の発症後に適用される「法定後見制度」では後見人にはなりにくい
被後見人が認知症などで判断能力が不十分の場合、4親等までの親族が家庭裁判所に法定後見制度の申立てをします。(検察官、市町村長の場合もある)
家庭裁判所は被後見人の事情に応じて「後見人を選任」します。この場合、知識経験のある専門性の高い第3者が選任される傾向にあります。
親族が法定後見人になることを希望しても希望どおり選任されるとは限りません。また、選任された後見人が希望にそぐわなくても不服申立てはできないことになっています。つまり被後見人が認知症を発症した場合に適用される法定後見制度では、家庭裁判所に誰を後見人にするのかを委ねるしかありません。
3-2認知症の発症前に「任意後見制度」で後見人になる
信頼できる親族が後見人になるには、被後見人が認知症になる前に「任意後見制度」を適用します。
任意後見制度は被後見人の判断能力が不十分な状態になることに備えて、事前に後見人を決めておく制度です。
被後見人が、あらかじめ自ら選んだ信頼できる親族に代理権をあたえる契約(任意後見契約)を、公証人の作成する公正証書で結んでおきます。そうすることで被後見人の判断能力が低下したときに、信頼できる親族が任意後見人として対応できます。
*任意後見人は家庭裁判所が選任した「任意後見監督人」の監督のもと被後見人を代理して保護、支援を行うことになります。
3-3認知症の発症前なら後見人ではなく家族信託という選択肢もある
認知症対策の財産管理を考えたとき、認知症の発症前であれば「家族信託」という選択肢もあります。
家族信託とは、本人(成年後見制度における被後見人)の判断能力があるうちに、信頼できる親族に財産の管理・運営・処分に関する権限を委ねる手法です。
成年後見制度は、本人の財産を護ること=財産の維持が目的ですが、家族信託では財産の相続対策、有効活用などを柔軟に行うことができます。財産の相続承継までのことを考える場合は家族信託がおすすめです。
家族信託の詳しい内容はこちらの『家族信託とは|親にも説明できる家族信託のしくみとメリット』を参考にしてください。
4まとめ
いかがでしたか。後見人になるために資格は必要ありません。5つの欠格事由に該当しなければ誰でも後見人になることが可能なのです。
しかし、一番の問題は「誰が後見人になるか」です。私たちは「信頼できる親族」が後見人になることを推奨していますが、なかなかその判断が難しい場合も多いことでしょう。だからこそ今回紹介したメリットやデメリットを参考にしてみてください。
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