認知症の相続人がいる場合、相続が出来なくなる|今から出来る相続対策

相続が発生した際に、亡くなった人の家族(相続人)に認知症の人がいると、相続(遺産を分けること)が出来ないことがあります。

遺言書が作成してあれば、遺言書の内容に従って遺産が相続されますが、遺言書がない場合、「相続人全員」で協議して遺産の分け方を決める「遺産分割協議」が必要になります。

その際に、認知症などで判断能力がない相続人がいた場合、遺産分割協議に参加できないため、相続手続きが出来ません。

相続手続きをするためには、成年後見人と呼ばれる代理人を立てる必要があります。詳しくは第2章でご紹介します。

 

高齢の父親はまだ元気だが、母親は認知症で施設に入所しているなど、片方の親がすでに認知症になっているケースも多いです。

Youtubeでも解説動画を投稿しております。

その場合、何も対策していないまま父親が亡くなってしまうと、遺産を分ける話し合いが母親と出来ないので、相続手続きが出来ません。

自宅の名義が父親だった場合、相続手続きが出来ないことによって、父親名義のまま放置になってしまいます。
空き家問題もこのように名義の問題によって、自宅の売却や賃貸など出来ないことにより起きています。

しかし、生前に遺言や家族信託などの相続対策をしておくことで、相続にかかる手続きを格段にスムーズにすることが出来ます。

例えば、家族構成が父・母・長男・長女の4人家族の場合、父親が亡くなったときの相続人は、母親・長男・長女の3名になります。

父親は遺言書を書いていなかったので、3人で遺産分割協議をすることになりました。

しかし母親はすでに重度の認知症で判断能力がない状態なので、遺産分割協議に参加することが出来ません。

こういった状況では、父親の遺産を相続するためには、成年後見制度の申立てをして母親に後見人を付けて遺産を分けるしかなくなってしまいます。

もし父親が遺産を子供2人に遺す旨の遺言書や家族信託契約をしていれば、遺言書や信託契約書の内容通りスムーズに相続手続きをすることが出来ました。

今回の記事では、認知症の家族(相続人)がいる場合の相続の流れと、生前の相続対策の方法に関してご説明します。

第1章では、父親の遺産を相続出来ないことで起こるリスクを上記の例を基にご紹介します。

公式Youtubeチャンネル

1章 認知症の家族がいて相続が出来ないことで起こるリスク

1-1 認知症の母親との共有名義の不動産を処分出来ない

父親の遺産に不動産(自宅など)が入っていた場合、認知症の母親に後見人を付けて遺産分割協議をすることで、母親、長男と長女の3人の共有名義になるケースも多いです。

認知症の母親の名義が入っていることで、例えばその後、母親が施設に入所して、空き家になった自宅を売却しようとした場合にも、母親が自宅を売却する意思表示が出来ないため、自宅を売却することが出来なくなってしまいます。
不動産の固定資産税や維持費だけが継続してかかって、何も対処できない不良資産になってしまいます。

その他にも、長男が母親より先に亡くなってしまった場合、長男に子供がいれば、長男の子供と母親との共有名義になってしまいます。
そうなると更に名義が複雑になってしまいます。

1-2 相続税の特例を使うことが出来なくなってしまう

  • 配偶者控除(配偶者の税額軽減制度)

→配偶者は、16,000万円または配偶者の法定相続分相当額のどちらか高い方まで無税で相続出来ます。
父親が亡くなったときに母親に大半の財産を相続させて相続税がかからない様にするケースも多いです。

しかし、遺産分割協議が出来ないと法定相続分での相続税の申告となってしまいます。

  • 小規模宅地等の特例

→特定の要件を満たすことで、土地の相続税評価をぐっと下げることが出来ます。
ただし、こちらも遺産分割協議が確定しないと特例を適用することが出来ません。


2章 認知症の相続人がいる場合は、成年後見制度を利用せざるを得ない

遺産分割協議に参加出来ない相続人がいる場合に、相続手続きを行なうためには、成年後見制度(法定後見制度)の申立てをして、後見人と呼ばれるご本人の代理人を付ける必要があります。

法定後見人を付けることで、後見人が代理で遺産分割協議に参加し、遺産を分けることが出来ます。
ただし、分割内容に関しては、自由に決めることは出来ません。

なぜなら後見人は、認知症の相続人の財産を守ることが仕事のため、本来受け取ることが出来る権利(法定相続分)を下回ることは出来ないからです。

成年後見制度に関して詳しくは、下記のコラムを参照ください。

成年後見人制度の2つの種類|後見人、保佐人、補助人の違いも解説

しかし、法定後見制度を利用するにあたっては、下記のような注意点もあります。

  • 亡くなるまで後見人を外すことは出来ない。

→遺産分割協議が終わったからといって、後見人の仕事が終了して後見人を外すことは出来ません。

  • 職業後見人と呼ばれる弁護士や司法書士が後見人になる可能性が高い
  • 職業後見人の場合、毎月報酬がかかる

→ご本人の所有する財産の規模に応じて職業後見人に毎月報酬を支払う必要があります。

家庭裁判所の通達では、管理財産額が5,000万円以下の場合には、基本報酬額を月額3万円~4万円、5,000万円を超える場合には、月額5万円~6万円としております。

仮に月額3万円の報酬がかかったとして、10年間続いた場合3万円×12ヵ月×10年間=360万円もかかる計算になります。

遺産分割協議に参加出来ない相続人がいる場合には、法定後見制度を利用することになります。

事前に対策しておくことで、後見人を付けることを回避することが出来ます。

詳しくは3章でお伝えします。

 


3章 今からできる事前にしておくべき相続対策

3-1 遺言

遺言書を作成しているかいないかで、相続の手続きは格段に違ってきます。

遺言書があれば、遺言書の内容を基に不動産の登記の変更、銀行口座の解約・払い出しをすることが出来ます。

遺言書に関して、詳しくは下記のコラムでご紹介しております。
遺言書は大きく分けて2種類ある!遺言書の種類と選び方を徹底解説

 

すでに遺言を作成している場合の注意点

◆受け取る人が認知症になっている

父親が認知症の母親に相続させる旨の遺言書を作成していることも多いかと思います。

認知症の母親に相続させることは可能です。

例えば、遺言執行者に子供を設定しておくことで、父親が亡くなった際に子供が遺言書の内容に従って手続きをすることで、母親に相続させることが出来ます。

しかし、認知症の母親に相続させた後に、財産を動かすことが出来ないリスクがあります。

例:①相続した自宅を売却して介護施設に入れたいが、売却の手続きが出来ない

  ②相続した預貯金から介護費用を支払いたいが、引き下ろすことが出来ない

上記のようなケースの場合、遺産の受取先を子供世代にした遺言書に書き換えることで相続した後の財産凍結を回避することが出来ます。

ただし遺言書の大前提としては、父親の想いが一番大切になります。

3-2 家族信託

家族信託では、生前の財産管理と合わせて、財産の承継先を決めることが出来ます。

上記の図の例が家族信託の一番多い事例です。

父親名義の自宅や現金を信託財産に入れて、財産管理を第一が長男、第二が長女が行ないます。

父親が亡くなった際には、母親に信託財産の受益権を移して財産管理は継続して、長男が行ないます。

母親が亡くなった際に信託を終了させて、長男へ帰属させるという設計です。

家族信託を契約しておくことで、父親が亡くなったあとでも、認知症の母親に財産の利益を受ける権利を移して、財産管理は引き続き長男が行うことが出来ます。
父親と母親が亡くなった後に、信託した財産を誰に渡すという遺言の機能まであります。

家族信託であれば、相続対策と合わせて母親の認知症対策をセットで行うことが出来ます。


まとめ

亡くなった人に認知症の家族(相続人)がいると、遺産分割協議に参加出来ないため、相続(遺産を分けること)が出来ません。

生前に遺言や家族信託などの相続対策をしておくことで、相続にかかる手続きを格段にスムーズにすることが出来ます。

亡くなった後に家族が揉めないためにも、生前にしっかりと対策をしておきましょう。

 

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