ご自分が後見人になろうと思ったとき、まずどんな手続きから始めたらいいのかわかりにくいですよね?
実際、後見人の制度は複雑で、被後見人になる方の判断力の有無など、いくつかの条件によって手続きが大きく違ってきますので、一般の方にはわかりにくい制度といえます。
ただし、それらの知識があるのとないのとでは、相続対策や相続開始後の手続きに支障が出るなど、思わぬ損失を被ることもあるので注意が必要です。
そうならないためには、やはりあらかじめ正しい知識を持ち、早めに成年後見制度を利用するなどの準備をしておくべきです。
このページでは、成年後見制度の概要から、実際に後見人を決めるまでの順序について詳しく見ていき、具体的に後見人になるための第一歩を踏み出していただけるように解説していきます。
1 成年後見制度とは
そもそも成年後見制度とは、高齢で認知症になってしまった方や知的障害、精神障害をお持ちの方などが、不当に不利益を被らないようにするための制度です。
例えば、自分の預貯金の管理ができなくなってしまったり、自分に必要な介護サービスを自分で選んで契約したりといった判断が難しくなってしまった人を、後見人をつけることで法的にサポートします。
そのため成年後見制度は、「本人の判断能力の有無」を主な基準に定めていて、主に「任意後見制度」と「法定後見制度」という2つの制度に分類されます。
まずはこの2つの制度の違いを抑えましょう。
1−1 任意後見制度とは
「任意後見制度」は、まだ判断能力に問題のない方が、将来的に判断能力が低下したときのために、前もって後見人を決めておく制度です。後見人がどのような代理行為を行うかについては、契約により決まります。
この制度は、あくまで被後見人が任意で後見人を選べるというものです。ですから、任意後見人になるためには、被後見人になる方との間で正式に契約を結ぶ必要があります。
こちらのメリットは、自由に後見人を決め、どのような行為を後見人に担ってもらうかについても自由に契約し、権限を持たせることができる点です。例えば、認知症になった後にはどのような医療や介護を受けたいかなど、前もって自由に指定しておくことができます。
デメリットとしては、契約に記載していないことについては、後見人は何もすることができないため、融通が利かない点が上げられるでしょう。
1−2 法定後見制度とは
「法定後見制度」は、すでに判断能力に衰えが見られている場合に利用する制度です。
法定後見人になるためには、家庭裁判所に申立てを行い、家庭裁判所に選任してもらう必要があります。
この制度のメリットは、家庭裁判所が間に入ってくれることから、親族などの周囲の人々にとって安心感があり、トラブルが起きにくい点です。後見人には財産の運用状況などを報告する義務が課されます。
デメリットは、それらの義務を課されることから、後見人の仕事が多くなってしまうところです。専門家ではない方が法定後見人になると、とくに大変です。
2 状況・目的別の適用制度
では次に、選択すべき後見制度をわかりやすくするために、「被後見人となる方の状況別」、「後見制度の利用目的別」に分類してみましょう。
2−1 被後見人の状況別
①判断能力に問題がない場合
「任意後見制度」を利用することができ、任意に契約した人をあらかじめ自身の判断能力が低下したあとの任意後見人に選んでおくことができます。
②判断能力に問題がある場合
「法定後見制度」を利用することができ、法定後見人をつけることができます。
|
任意後見制度 |
法定後見制度 |
判断能力あり |
◯ |
× |
判断能力なし |
× |
◯ |
2−2 後見制度利用の目的別
①遺産分割協議対策が目的の場合
「任意後見制度」「法定後見制度」どちらを利用しても対応可能です。
②被後見人死亡後の相続対策が目的の場合
「任意後見制度」のみ対応可能です。
被後見人死亡後の相続対策を行う行為は、被後見人の利益を守る行為ではなく、相続人の利益を守る行為に該当するため、後見人の権限の範囲から逸脱するものです。
そのため、法定後見人には事実上相続対策を行う権限がありません。
ですが、任意後見制度を利用する場合には、被後見人死亡後の相続対策を行う旨を契約書に明記しておくことで対応可能となります。
|
任意後見制度 |
法定後見制度 |
遺産分割協議対策 |
◯ |
◯ |
相続対策 |
◯ |
× |
3 任意後見人になるには
任意後見人になるには、まず、被後見人になる方と一緒に公証役場へ赴き、正式に任意後見契約を結んで公正証書を作成します。この時点で、その方が任意後見人として登記されることとなります。
任意後見契約書の作成は個人でも可能ですが、弁護士または司法書士が代行してくれますので、そちらを利用するという選択肢もあります。
そしてその後、認知症等により、被後見人となる方の判断能力が低下しはじめた際に、その方の配偶者などの親族が家庭裁判所に後見開始の申立て(任意後見監督人選任の申立て)を行います。
この手続きは、基本的に配偶者などの親族が家庭裁判所に対して行いますが、司法書士や弁護士を介して行うことも可能です。申立ては、必要書類を家庭裁判所に持参するか郵送で行います。
家庭裁判所では申立てを受け、審問等を行い、任意後見監督人と呼ばれる後見人の監督者を選任します。このタイミングで正式に後見が開始されます。通常、申立てから1ヶ月程度で後見開始となります。
任意後見制度の特徴は、判断能力がまだある方が将来を見越して任意後見契約を結ぶという点です。また、後見する内容についての自由度が高い点も大きな特徴です。
そのため、任意後見人になるにあたっては、本人との綿密な話し合いはもちろんのこと、周囲の親族から理解を得ることも重要になります。
3−1 任意後見人になれる人
任意後見人には、原則的に、資格の有無などによらず誰でもなることができます。親族か第三者かも、個人か法人かも問いません。また、一人ではなく複数人が任意後見人になることもできます。
3−2 任意後見人になれない人
上述のとおり、原則的には誰でも任意後見人になれますが、以下に該当する人は後見人になれません。
・未成年者
・家庭裁判所により過去に後見人をやめさせられた人
・破産者
・被後見人に対して過去に訴訟を起こしたことがある人とその親族
・行方不明の人
このほか、以上に該当しない場合でも、不正行為や著しい不行跡を行った人については家庭裁判所が解任できるとされています。
3−3 申立てに必要な書類
任意後見監督人選任の申立てを行う際に、家庭裁判所に提出する書類は以下のとおりです。
・申立書(参考ページ)
・申立書付票
・医師による診断書
・本人の戸籍謄本、住民票
・後見登記事項証明書
・診断書
- その他、各家庭裁判所が指定する書類(家庭裁判所ごとに異なります)
3−4 任意後見人になるための費用
任意後見人になるためにかかる費用は、任意後見契約にかかる費用がおよそ2〜3万円、後見開始時にかかる申立費用が約5千円で、トータルではおよそ3〜4万円ほどの費用が発生することになります。
3−5 利益相反について
また、任意後見人には利益相反行為が禁止されています。
利益相反とは、例えば、同一の相続につき被後見人と任意後見人がともに相続人になるようなケースです。
同じ相続で両者が相続人になるということは、一方が多く財産を相続して得をすると、もう一方の相続する財産が減って損をするという関係になります。このように、利益が相反する関係を利益相反の関係といいます。
こういったケースでは、任意後見人が公正な判断を下せない可能性があるため、その相続に限り、その任意後見人は被後見人の代理行為は行えません。
4 法定後見人になるには
法定後見人になるには、まず、法定後見人の候補者を記載した申立書を作成し、必要書類と一緒に家庭裁判所に提出して申立てを行います。
申立てを受けて家庭裁判所は、事実関係を調査し、候補者が後見人等としてふさわしいかどうかの審判を行って法定後見人を選任します。必要な場合には精神鑑定が行われます。
家庭裁判所から通知を受けた段階で、法定後見が開始されます。
法定後見人は、家庭裁判所からさまざまな義務が課せられることから、ある程度専門的な知識や事務能力が必要になります。そのため、実際の統計を見てみると、弁護士や司法書士をはじめとする専門家が法定後見人に選任されるケースが多いという実情があります。
4−1 法定後見人になれる人
上述のとおり、法定後見人になるには家庭裁判所の選任を受ける必要がありますが、法定後見人の候補者には、資格の有無などによらず誰でもなることができます。親族か第三者かも、個人か法人かも問いません。2人以上の後見人をつけることもできます。
4−2 法定後見人になれない人
原則的に誰でも法定後見人の候補者になれますが、以下に該当する人に限って後見人にはなれないものとされています。
・未成年者
・家庭裁判所により過去に後見人をやめさせられた人
・破産者
・被後見人に対して過去に訴訟を起こしたことがある人とその親族
・行方不明の人
上記に該当する人は法定後見人にはなれません。
4−3 申立てに必要な書類
法定後見制度の申立てを行う際に、家庭裁判所に提出する書類は以下のとおりです。
・申立書(参考ページ)
・申立書の付票(参考ページ)
・本人の戸籍謄本
・本人、法定後見人候補者の住民票
・登記されていないことの証明書
・医師による診断書
・申立費用(収入印紙・郵便切手)
上記の必要書類のほか、各家庭裁判所がそれぞれ指定する書類が必要となります。
4−4 申立てを行える人
以上の書類により申立を行えるのは、被後見人となる方本人、配偶者、4親等内の親族のほか、これらの親族がいない場合に限り市区町村長などの特殊な立場にある人が申立てを行うことができます。
※4親等内の親族とは以下をいいます。
父母、子供、祖父母、兄弟姉妹、孫、曾祖父母、ひ孫、おじおば、甥姪 、高祖父母、玄孫、いとこ、姪孫、配偶者の父母、子供の配偶者、配偶者の祖父母・兄弟姉妹、自分の兄弟姉妹・孫の配偶者、配偶者の曾祖父母・甥姪、おじおば・甥姪・ひ孫の配偶者
4−5 法定後見人になるための費用
法定後見人になるための費用としては、被後見人の精神鑑定費用の有無により大きく異なります。
精神鑑定が必要ない場合には1万円前後の申立費用のみとなり、鑑定が必要な場合にはさらに5〜10万円の鑑定費用が追加でかかります。
4−6 利益相反について
また、法定後見人には利益相反行為が禁止されています。
利益相反というのは、例えば、同一の相続につき被後見人と任意後見人がともに相続人になるような場合です。
この両者が同じ相続の相続人になるということは、一方が多く相続財産を相続すると、もう一方が相続する財産が少なくなるという、利益が相反する状態になってしまいます。
このような場合には、法定後見人に公正な判断が下せない可能性があるので、その相続に限り、その法定後見人は被後見人の代理行為は行えないことになっています。
5 家族信託という選択肢
成年後見制度のほかに、相続を見据えた資産管理の手段として、「家族信託」という制度があります。
この制度は2007年に施行されたもので、成年後見制度の不足を補うことのできる柔軟な制度となっています。
制度の内容は、資産をお持ちの方がその資産を、信託銀行などの営利目的で信託を行う事業者ではなく、信頼できる家族に信託し、管理や移転を任せるというものです。
この制度の主なメリットとしては、資産をお持ちの方の判断能力に問題がなくても行える点と、家庭裁判所を通さなくても行えるため手続きが速やかに行える点が挙げられます。
6 まとめ
以上のように、後見人になるためには、被後見人の方の判断能力別に様々な要件があり、家庭裁判所を通じてそれらの要件をクリアしなければなりません。
また、相続を想定した成年後見制度の利用には、周囲の利害関係者の方々との話し合いも非常に重要です。
無用なトラブルを避けるためにも、周りの親族の方々ともよく話し合い、賢く成年後見制度を利用する道を選びましょう。
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