
親が認知症になった時にどうすればいいのか調べていたら後見制度と家族信託を知ったという方が多いのではないでしょうか?
しかし、後見制度と家族信託を比べてどちらが良いのかよくわからないですよね。
さらに、後見制度は任意後見制度と法定後見制度の2つに分けることができ、家族信託と併せて合計3つの異なる方法があることになります。
そこで、この3つの手法について徹底比較しました。
これを見ることで、任意後見制度・法定後見制度・家族信託のどれを選ぶべきかがわかります。また、ご本人の状況別に選ぶべき手法をまとめましたので、ぜひ確認ください。
目次
1. 後見制度と家族信託を徹底比較
本章で、後見制度(任意後見制度・法定後見制度)と家族信託を徹底比較します。
特に財産管理と身上監護と費用については、実際に活用する上で重要な項目になるのでよく見ていきましょう。
1-1. できること・できないこと
できること | |
任意後見人 | ・身上監護(取消権なし) ・財産管理 |
法定後見人 | ・身上監護(取消権あり) ・財産管理 |
家族信託 | ・財産管理 ・遺言代用 ・事業承継 ・資産承継の順番指定 |
できないこと | |
任意後見人 | ・取消権がないため被後見人の行為を取り消せない ・財産管理は後見人を不利益から守るための必要最低限しかできない |
法定後見人 | 財産管理は後見人を不利益から守るための必要最低限しかできない |
家族信託 | 身上監護 |
1-2. メリット・デメリット
【任意後見制度のメリットとデメリット】
■メリット
・後見人や後見の内容を自由に決めることができる
・財産管理と身上監護どちらもできる
■デメリット
・本人の判断力が欠如している場合には利用できない
・本人の不利益を避けるための最低限の財産管理しかできない
【法定後見制度のメリットとデメリット】
■メリット
・財産管理と身上監護どちらもできる
・判断力が欠如してしまった場合の最終手段になりうる
■デメリット
・後見人の選任から後見人の職務内容までほとんど自由が利かない
・後見人に報酬が発生する可能性が高い
・制度利用自体を後悔するようなトラブルに発展することがある
【家族信託のメリットとデメリット】
■メリット
・自由度の高い財産管理ができる
・本人が亡くなった後の資産の承継等についても設定できる
■デメリット
・身上監護ができない
・本人の判断力が欠如している場合には利用できない
・詳しい専門家が少ない
1-3. 利用するのにかかる費用
■初期費用(契約・登記等にかかる必須の費用)
任意後見制度 | 公正証書作成費用:約1万5千円 |
法定後見制度 | 後見開始の申立て費用:約1万円(精神鑑定が必要な場合にはさらに5〜10万円ほどの鑑定費用がかかります) |
家族信託 | 公正証書作成費用:5千〜約25万円(財産の金額のより大きく異なります。この金額は財産の額が100万円〜10億円のケースを想定しています。) |
■初期費用(弁護士等の専門家を利用した場合にかかる費用)
任意後見制度 | 任意後見契約書作成費用:約10万円〜150万円(財産額や専門家の種類等により大きく異なります。) |
法定後見制度 | 後見開始の申立て代理手数料:約10〜30万円(財産額や専門家の種類等により異なります。) |
家族信託 | ・信託契約書作成費用:約50万円〜150万円(財産額等により大きく異なります。) ・その他コンサルティング費用:約5〜10万円 |
※いずれも専門家に依頼しない場合は0円ですが、通常は専門家に依頼します。
■ランニングコスト
任意後見制度 | 後見人・後見監督人の報酬:月額約1〜10万円(財産額や後見人を依頼する相手により異なります) |
法定後見制度 | 後見人・後見監督人の報酬:月額0〜約10万円(財産額や後見人になる人が親族か専門家かの違い、後見監督人の有無等により異なります) |
家族信託 | 信託監督人の報酬:月額数万円(信託監督人をつけなければ0円) |
1-4. 利用する際の条件
任意後見制度 | 被後見人になる人の判断能力に問題がないこと |
法定後見制度 | 被後見人になる人の判断能力に問題があること(医師の診断書が必要) |
家族信託 | 信託財産の所有者の判断能力に問題がないこと |
1-5. 任務終了までの期間
任意後見制度 | ・任意後見開始前ならいつでも契約を解除できる ・任意後見開始後は、後見人が任務に適さないなど相当の理由がある場合には解除できる |
法定後見制度 | 基本的に、被後見人の判断能力が回復するか、被後見人が死亡するまでは制度利用をやめることはできない |
家族信託 | ・契約時に信託終了事由を定めておけば、その事由に該当した場合には信託を終了することができる ・終了事由の定めがない場合は、委託者と受益者の合意があれば終了できる |
1-6. 変更・解任の可否
任意後見制度 | ・後見開始前であれば契約を解除し、新たな後見人との間で再度任意後見契約を結ぶこととなる ・後見開始後はいったん任意後見を終了し、法定後見に移行する必要があるため、任意の相手を後見人にすることはできない |
法定後見制度 | 法定後見人が違法行為を行うなどした場合に限り、法定後見人を解任することができるが、基本的には変更できない |
家族信託 | ・契約時に変更事由を定めておけば、その事由に該当した場合には変更することができる ・変更事由の定めがない場合は、委託者と受益者の合意があれば変更できる |
2. 状況別のベストな選択肢
高齢者の方を抱えたご家族の状況別に、どの制度を利用するのがいちばん賢い選択なのかを見ていきましょう。
※法定後見制度の利用は極力避ける
既に認知症である方以外は法定後見制度の利用はオススメしません。なぜなら、下記のようなデメリットがあるからです。
・法定後見制度では自由な財産処分ができない
・すべての財産が家庭裁判所の管理下に置かれてしまう
・職業後見人がつくと毎月費用がかかってしまう
もし、まだ認知症になっていないのであれば、任意後見人・家族信託を利用するようにしましょう。
2-1. 判断力がある場合は任意後見&家族信託がベスト
判断能力がない場合 | 法定後見制度しか選択できない |
判断能力がある場合 | 任意後見制度と家族信託の組み合わせがベスト |
認知症がすでにかなりのレベルにまで進んでしまっていたり、病気や事故の後遺症で判断力が失われてしまっているような場合には、残念ながら選択肢は法定後見制度しかありませんが、判断力に問題がない場合や、認知症でもまだ自分の判断で契約できる程の軽度のものである場合、理想的なのは、任意後見制度と家族信託の併用です。
理由は、任意後見制度を利用することで、家族信託ではできない身上監護をカバーすることができ、家族信託によって、任意後見よりも自由度の高い財産管理を行うことができるためです。
また、家族信託の利用によって、生前の問題だけでなく、亡くなった後の相続についても対策を講じることが可能になります。
この組み合わせが最も自由な制度設計ができ、ストレスなく老後に生活を送れる賢い組み合わせといえるでしょう。
2-2. 身上監護よりも財産管理や相続対策の必要性がある場合は家族信託がベスト
管理する財産の種類や金額が多く、財産管理の必要性が強くあり、介護や身の回りのお世話など、身上監護の必要はないという場合には、財産管理の自由度の高い家族信託を利用すべきでしょう。
また、本人が亡くなったあとのそれらの財産の相続対策については、家族信託を利用することで十分カバーできますので家族信託の利用が最適です。
2-3. 財産管理よりも身上監護の必要性がある場合は任意後見がベスト
管理する財産の種類や金額があまり多くなく、身上監護の必要性の方が強くある場合には、任意後見制度の利用をおすすめします。
どのような介護や医療を受け、どのように老後の生活を送りたいかを信頼できる方と相談し、任意後見契約を結びましょう。
3. まとめ
成年後見制度と家族信託には一長一短あるといえますが、法改正を受け、後見制度の不備を補うかたちで後から生まれた家族信託は、単独でも、任意後見制度と組み合わせることでも強力な力を発揮するものとなっています。
相続対策に役立つ点でも、家族信託については可能性を大いに秘めた制度なのです。
いずれにしても、まずはご家族の話し合いが重要です。後悔のないよう、さまざまな観点からよく話し合うことをおすすめします。
このページが、その際の一助となれば幸いです。
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