遺言よりも確実性が高く、相続トラブルの発生を最小限に抑えることができる「遺言代用信託」をご存知ですか?
遺言代用信託とは、信託銀行に財産を預け管理・運用をしてもらう信託契約のことです。信託銀行に預けた財産は、本人が亡くなった直後から相続人に引き継ぐことができ、しかも生前から財産の分配方法を決めることができる、トラブルの発生リスクを抑えられる近年注目の財産管理手法です。
しかし、遺言代用信託を本当に活用すべきかわからなかったり、活用するメリットがイメージできていない方も多いのではないでしょうか。そこでこの記事では、遺言代用信託の定義やメリット、注意点・費用まで具体的に解説していきます。
事前に万全の準備をすることで円滑に相続を進めたい、という方はぜひ参考にしてみてください。
目次
1.遺言代用信託とは?
遺言代用信託とは、信託銀行等に財産を預け管理・運用をしてもらう信託契約のことです。生存中は本人のために管理運用し配当金を受け取ることができ、亡くなった後は家族に信託財産を引き継ぐことができます。
特に、残された家族の生活が不安な場合に活用すると良いでしょう。亡くなった直後から財産を引き継ぐことができ、それに加え年金のように定期的に財産を受け渡すことも可能だからです。
本来、相続が完了するまでの数ヶ月間は被相続人の銀行口座が凍結されたり、葬儀費などの突然の出費がかさむため経済面での負担を強いられます。しかし遺言代用信託で管理、運用を行っている信託財産であれば自由に受け渡すことが可能ですし、残された家族が散財する可能性を軽減することもできます。年金のように「月○万円ずつ」引き継ぐことで家族の無理な散財を抑えつつ、毎月の生活費を安定的に賄うことが可能となります。
つまり遺言代用信託とは、引き継ぎのペースや額を自在にコントロールできる財産管理手法と言えるでしょう。
※「遺言」と「遺言代用信託」の違い
1)効力を発揮するタイミング
「遺言」は死後に効力を発揮しますが、「遺言代用信託」は生前から死後にかけて効力を発揮します。遺言代用信託は財産を管理運用することで生前から配当金を受け取ることができ、死後には財産を引き継ぐことができます。つまり長いスパンでメリットを享受することができます。遺言は死後のみに効力を発揮します。
2)財産を引き継ぐ確実性
「遺言」では相続人全員が不満を持つことで遺言の内容を撤回することができますが、「遺言代用信託」は確実に内容を実行することができます。遺言代用信託は生前に契約を結ぶことができるため、信託財産に限っては遺産分割協議の対象にならないからです。
3)口座凍結の有無
「遺言」では銀行口座の凍結がありきで相続が開始されますが、「遺言代用信託」では銀行口座の凍結を無視した財産の配分(引き継ぎ)ができます。遺言代用信託で管理している財産は通常の銀行口座とは扱いが異なるからです。
2.遺言代用信託の5つのメリット
遺言代用信託のメリットは、以下の5点です。
1.被相続人が亡くなった直後でもお金を引き出せる
2.残された家族に年金のように配分することができる
3.孫の代まで財産の分配を決めることができる
4.相続の仕組みを生前に作ることでトラブルを抑えることができる
5.元本が保証されている
遺言代用信託を活用すると、相続のトラブルを防ぐことができ、家族で納得の行く形での相続を行うことができます。それでは各メリットについて見ていきましょう。
2-1 被相続人が亡くなった直後でもすぐにお金を引き出せる
遺言代用信託の場合、被相続人が亡くなった後すぐにお金を引き出すことが可能です。
本来、残された家族は相続手続きが済むまで被相続人の口座から財産を引き出すことができません。被相続人の死後に銀行口座が凍結されてしまうからです。
しかし遺言代用信託では通常の銀行口座とは別で財産を管理するため、銀行口座の凍結に影響されることなく、すぐにお金を引き出すことができます。葬儀費用など死後にお金が必要になった場合においても、すぐに財産を引き出すことができるのは遺言代用信託の強みです。
2-2 残された家族に年金のように配分することができる
残された家族の中長期的な生活が不安な場合は、年金のような形で定期的に財産を引き継ぐことができます。散財を抑える効果があり、子どもの教育費や配偶者の介護費など将来を考慮した資産の引き継ぎができます。
2-3 孫の代まで財産の分配を決めることができる
遺言代用信託では、孫の代まで財産の分配を決めることができます。
遺言代用信託の場合:本人の意思で孫の代の財産分配を契約により定めることができる
遺言書の場合:本人の意思で孫の財産分配を決めることができず、子の残した遺言書により(子の意思により)孫の代の財産分配が定められる
上記の通り、通常の遺言書の場合は子が遺言書を書いてはじめて孫の代の財産分配を定めることができます。つまり遺言書では、被相続人自身が孫の代の分配を決めることができず、子の意思によって分配が決められるということです。被相続人の意思を孫の代に反映させることが難しいのです。
しかし遺言代用信託では被相続人の意思を孫の代まで反映させることができます。それを確実に契約で定めておくことができるのは遺言代用信託の強みです。
2-4 相続の仕組みを生前に作ることでトラブルを抑えることができる
遺言代用信託は、被相続人が判断能力を持つうちに被相続人と相続人の間で契約内容の合意形成ができます。事前に相続の仕組みを作れることから、相続人同士のトラブルを最小限に抑えることができます。
相続争いの多くは被相続人の死後に起こります。「自分にとって都合の良い相続を実現したい」を思う相続人が複数名集まると、相続資産の配分で揉めることが多々あります。これは相続人同士での合意形成ができていないことが原因です。
被相続人の判断能力があるうちに相続資産の配分について合意形成できていれば、相続人同士のトラブルを最小限に抑えることが可能です。これを実現できるのが、生前に信託契約を結ぶことができる遺言代用信託なのです。
※信託財産は遺産分割協議の対象になりません。これもトラブルの発生を抑えることができるポイントです。
2-5 元本が保証されている
遺言代用信託では元本が保証されていることがほとんどです。ただし、銀行や商品によっては元本保証の有無が異なるケースがあるので事前に確認することをお勧めします。
3.遺言代用信託を活用する前に知っておきたい3つの注意点
遺言代用信託を活用する際の注意点は大きく分けて2つあります。
1.相続税の対象になる
2.遺留分が適用される
3.不動産や株式は対象外
それでは具体的に見ていきましょう。
3-1 相続税の対象になる
遺言代用信託においても、引き継がれた財産が相続税の対象となります。遺言代用信託は通常の相続とは異なるものと捉えられがちですが通常と同様に相続税が課税されますので注意しましょう。
3-2 遺留分が適用される
遺言代用信託における信託財産は遺産分割協議の対象とならず相続トラブルの発生を最小限に抑えられるとお話ししましたが、「遺留分」は通常通り適用されます。遺留分とは、最低限受け取ることができる相続分のことを指し、被相続人の意思とは別で必ず分配されなければいけないもののことを指します。
遺留分を下回る財産しか受け取れなかった相続人は「遺留分減殺請求」を行使し、遺留分をなんとか請求しようと試みることでしょう。これによるトラブルが発生することは少なくありません。
遺言代用信託は確実かつ自由に財産を分配できる契約だと思われがちですが、遺留分が適用されることを考慮に入れ、トラブルが発生する可能性があることを注意しておくべきでしょう。
3−3 不動産や株式は対象外
遺言代用信託は現金のみの取扱いとなります。財産には現金だけでなく不動産や株式も含まれますが、遺言代用信託で管理、運用できる財産は現金のみとなります。
株式や不動産など、その他の財産を信託したい場合は「家族信託」を活用する方法も有ります。詳しくは6章をご覧ください。
4.遺言代用信託の2つの活用パターン
遺言代用信託は「一時金型」と「年金型」の2つのタイプがあります。タイプによって活用できる内容が異なります。
4-1 必要なお金をすぐに準備できる「一時金型」
ここまで主に紹介してきた遺言代用信託はこの「一時金型」です。一時金型とは、亡くなった直後に簡単な手続きだけですぐに信託財産を引き出すことができるタイプです。葬儀費用や直後の生活費用をすぐに工面すべきと判断できる場合はこの「一時金型」を検討すると良いでしょう。
4-2 遺された家族の長期的な生活を支える「年金型」
年金型はその名の通り、年金のような役割を持つ遺言代用信託です。遺族の長期的な生活が心配なケースや遺産の無駄使いなどの懸念がある場合に有効なタイプです。長期的な払い出しとなるため、一時金型と比べて高額な信託金額が必要となることがほとんどです。
※一時金型と年金型の組み合わせもあります。どの型が良い悪いということではなくあなたの目的に応じた運用方法を選択することが大切です。各金融機関によって商品が異なるため複数調べてみることをお勧めします。
5.遺言代用信託の費用
基本的に、遺言代用信託の費用はかからないことがほとんどです。信託銀行は遺言代用信託の初期費用やランニングコストから利益を得ている訳ではなく、信託財産の運用益から利益を得ているからです。 (※信託財産の最低額が決まっていることがほとんどです。少額の財産を信託しても、運用益から得られる利益が少ないからです。)
しかし、信託銀行によっては(商品によっては)手数料が発生するものもあります。遺言代用信託の活用を検討している場合は、各銀行に直接問い合わせ手数料の有無を確認することをお勧めします。
6.遺言代用信託と家族信託の違い
「家族信託」のことを「遺言代用信託」と呼ぶケースがあります。ここまでお伝えしてきた「遺言代用信託」は現金のみを扱います。「家族信託」では現金以外の株式や不動産などあらゆる財産を扱います。具体的な違いは下記の通りです。
遺言代用信託 | 家族信託 | |
---|---|---|
信託の種類 | 商事信託 | 民事信託 |
取扱資産 | 現金のみ | 現金、株式、不動産など(特に制限なし) |
信託の受託者 | 銀行 | 家族 |
ランニングコスト | 原則不要 | 信託監督人への費用 |
信託できる財産額の目安 | 50万〜1,000万 | 制限なし |
運用益の有無 | 有 | 無 |
向いている人 | 資産が現金のみ 家族に資産運用を任せられる人がいない |
資産に現金以外のものが含まれる |
ご覧の通り、「遺言代用信託」と「家族信託」ではメリットとデメリットが異なります。あなたの置かれた状況によって、上記を参考にどちらを選択するか検討すると良いでしょう。
なお私たちは「家族信託」を活用することを推奨しています。なぜなら気心の知れた信頼できる家族に財産の管理をしてもらうことによりトラブルの発生を最小限に抑えることができ、かつ認知症によるあらゆる財産の凍結を未然に防ぐことができるからです。
ただし、信頼のおける家族がいない場合は難しいでしょう。家族に任せることが難しそう(トラブルに発展しそう)と思われる場合は遺言代用信託を選択することをお勧めします。
家族信託について詳しく知りたい方はこちらの『家族信託とは|親にも説明できる家族信託のしくみとメリット』をご参考ください。
7.まとめ
遺産相続の問題を起こさないために、被相続者が元気なうちに相続の仕組みを作っておきたい、という人にとって、遺言代用信託は非常に役立つ仕組みと考えられます。
あるいは、被相続者の口座が凍結され、認知症などにより契約ができないなど不測の事態が起こっても対処ができるようになる、というのも大きなメリットです。
まずは、終活の一環として、どのような仕組みが自分の家族にとって最適なのかを専門家に相談したり、学んでみることをお勧めします。
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